天使の涙



テーブルの上の新聞を手に取り、真っ先に開いたのはスポーツ欄。どうやら巨人ファンらしく、先日の試合結果を食い入るように眺めている。


「お?何や、お前も今頃起きて来たんか」


畑山先生はドアから入って来た少年に目をやりると、新聞をテーブルに置いて、ズボンから取り出した煙草に火をつけた。


「コラ。無視すんなー。俺の独り言みたいになるやろが」


「うっせぇ。朝からテメーの山口弁なんて聞きたくねーんだよ。喋んなエセ教師」


少年は冷蔵庫から取り出した1リットルの牛乳パックをビリっと開けてそのまま口に運んで飲み干すと、袖口で乱暴に唇を拭った。


「凜ちゃん遊びに行ったで」


「は、誰だそれ」


「この前うちに入って来た新しい子の名前やろうが。覚えとらんのか?しゃーないねぇ」


「……」


興味なさげな少年を横目で見ながら、畑山先生は苦笑気味に紫煙をフゥと吐き出す。


そしてまた


「ほんと、しゃーないねぇ」


と言って灰皿に煙草を擦り付けた。


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