始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「あ・・そう?」



「そうですよ」



彼の言葉を聞いたところで『ポーン』と到着を知らせるチャイムが鳴って、階数を知らせるボードを見れば私達が降りる1階を表示していた。

エレベーターを降りてロビーを通り外へ出た所で彼が聞いてきた。



「咲季さん、何食べたい?」



「うーん・・中華!。澤田くんは?」



ハッキリと『中華!』と言ってしまってから、『あっ』と気づく。

本当は彼の食べたい物も聞いた方がいいよね。

『澤田くんは何食べたい?』って聞く女の方が可愛かったよね。

そう後悔したとこで彼も『僕も中華』と返してきた。

ほら・・気を使わせてしまった。



「他でもいいんだよ。澤田くんの食べたい物」



今更ながら彼の希望を聞いてみても『じゃあ和食』とは言わないよね。そんな男じゃない。

ズンッと気持ちが落ちるのを感じる。

するとクスクスと笑う声が聞こえた。



「エビチリと餃子でビールが飲みたいな」



「え?」



「あと麻婆豆腐」



「何か明日臭いそうね」



「明日は休みだから大丈夫ですよ。たくさん食べましょう。咲季さんは何食べたい?」



「うーん、辛い麻婆豆腐」



「了解です」



そう言うと私の手を取って歩き出した。

会社から少し離れたとはいえ、周りには沢山の人達が歩いている。

知りあいには見られなくても、こんなにオープンに手をつないで歩くことに慣れてない私は、何となく彼の手を握ることができない。

本当は手をしっかりつないだり、腕を組んで恋人らしく歩きたいのに。

そう思ってほんの少し親指と人差し指に力を入れてみた。

すると彼はつないでいた手を少し緩めて、今度は指と指を絡めて恋人つなぎに変えて握ってきた。



「あっ」



驚いて小さな声が漏れる。

その勢いで彼の顔を見上げると、優しく微笑んでつないでいる手を少し引き寄せた。

そのタイミングに合わせて彼の腕に身を寄せる。



「どこの店にしますか?」



「近くて美味しいお店」



「ワガママだなぁ」



クスクスと笑う彼の顔を見上げて私も笑う。

近い店って言ったけど、本当はちょっと遠くてもいいっていうのが私の本音。

今はもう少し長く寄り添って歩きたい。

こうして歩く事にドキドキと安心感を感じ、私から彼の指をキュッと握った。

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