始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「もう帰るんですか?」



「うん」



「え~!じゃあ飲みに行きません?」



「行きたい!行きましょうよ!」



嬉々と彼を誘う声が廊下に響く。

あ~、そういう話の流れになるよね・・・。

2人に塞き止められて足を止めた彼を置いて私はそのまま足を進める。

一緒になってその場にはいられないよ・・・。

モヤモヤする気持ちでエレベーターホールへと歩いていく。

そして躊躇することなく下りのボタンを押す。

誰もいないホールで1人ため息をつく。



こんなもんだよね・・・。



めったに早く戻らない彼を見つければ、みんなここぞとばかりに誘い出す。

隠れて付き合うってこういうもんだ。

彼がいろんな人に誘われ、そのキラキラした瞳を見続けることも承知の上で秘密にして欲しいと自分から言ったのだから。

それでも心は正直で嫉妬もすれば不安にもなる。



「はぁ・・」



またため息をついたところで、真後ろから「エレベーター来ましたよ」と彼の声が聞こえた。



「えっ!あっ・・」



驚いて振り返ると、そっと腰に手を添えられてエレベーター内に誘導された。

中には誰もいない。私と彼の2人だけ。

それなりのスペースがあるのに、寄り添うように彼が立つ。

シンとした空間に気まずくなって、また私の悪い癖が出る。



「せっかく誘われたのだから、行って来ればいいのに」



つま先を見ながら悪態をつく。

そんなこと思っていないのに。絶対嫌なのに。

言った後、自分の言葉が嫌になって下唇を噛んで瞳を伏せる。



「行きませんよ。咲季さんとご飯食べたくて急いで帰って来たんだから。彼女達と食事する時間を作る位なら、僕は仕事しますよ」



その言葉に驚いて彼の顔を見ると、穏やかな表情をしている。

こんな顔してそんなこと言うの?

何だか気が抜けてしまう。

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