ラストバージン
いつものようにバスルームに飛び込み、職場を出た時よりも更に崩れているであろうメイクを落とした。
湯舟に浸かったところで、ふと榛名さんやマスターに酷い顔を見せていたんじゃないかと気付いて、思わずため息が漏れた。


それでも思い出すのは、楓での楽しかった時間。


佐原さんと過ごしていた時は気を遣ってばかりで、彼との時間は一度だって楽しむ事が出来なかったのに……。マスターはもちろん、榛名さんとの時間は本当に楽しかった事、何よりも自然体で過ごしていた自分に気付いて、少しだけ驚いた。


しかも、あんな風に自分の事をすらすらと話すなんて、普段の私なら到底考えられない。
いつも相談に乗って貰っているマスターにだって、自分がどうありたいのかなんて言った事はなかった。


それなのに……今日は考えるよりも先に、自分の信念にも似たものを言葉にしていた。
こんなにも自然体でいられたのは、一体いつ以来だろう。


榛名さんの言う通り、もしかしたら私達は気が合うのかもしれない。
そんな事を思うと自然と笑みが零れていて、お風呂から上がる頃にはポカポカと温まっていた心と体はすぐに夢の中へと沈んでしまった――。

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