ラストバージン
酒井さんは決して仕事が出来ない訳じゃないし、二年間見て来た彼女の努力もよくわかっているつもりだ。
ただ、矢田さんの性格も仕事振りも予想外過ぎて私自身も困っているし、三年目の看護師ではさすがに荷が重いだろうと感じ始めている。


「もう少しだけ、頑張ってみてくれないかな?」


アルコールの力もあるのか、酒井さんの瞳は潤んでいた。


「今月いっぱいで構わない。もちろん私も精一杯フォローするし、いつでも相談に乗るから。それでもやっぱり無理だと思うなら、指導看護師を代えるから」


俯いてしまった彼女の表情がわからなくて、不安に駆られてしまう。


だけど、酒井さんがどうしても無理だと言うのなら、彼女にこれ以上無理をさせる訳にもいかない。
指導する方が参ってしまっては意味がないし、リハビリ科にとっても酒井さんに倒れられたら痛手になる。


「指導をするとね、初心に返れると思う。三年目って仕事にすっかり慣れてしまってマンネリになりがちだけど、新人を傍で見る事で色々と気付けたりするから、酒井さん自身の成長にも繋がると思う。つらいだろうけど、それが役に立つ時が来るはずだよ」


自分自身の経験からそう告げると、彼女がゆっくりと顔を上げた。

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