ラストバージン
ノックに対する返事が返って来てから、ゆっくりとドアを開けた。


「失礼します」

「何の用?」

「先程は大変申し訳ありませんでした」


不機嫌をあらわにする患者さんに、謝罪の言葉を紡いだ後で頭を深く下げた。
初老の彼女は、スタッフや他の患者さんに対してモンスターペイシェントと言える振る舞いが多々ある事から個室に入っていて、出来るだけベテランの看護師が付くようにしている。


「スタッフから事情を聞きましたが、きっと驚かれた事と思います。冷たいお茶が掛かってしまったそうですが、お体は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫な訳ないでしょう! 風邪でも引いて肺炎にでもなったら、どうしてくれるのよ! それで死ぬ場合もあるのよ!」

「お怒りはもっともです。今後はこのような事がないよう、スタッフ一同気を引き締めて看護に当たらせて頂きますので」

「当たり前でしょ! また同じ事があったら、さっさと転院してやるわよ!」

「本当に申し訳ありませんでした」

「すみませんでした」


私の目配せに気付いた矢田さんも謝罪を紡いだけれど、その声が淡々としている事にまた不満を感じた患者さんが眉を寄せ、ようやく病室を後にした時には二十分近くが経っていた。

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