ラストバージン
結局、矢田さんにはどう言えばいいのかわからないまま、不満げな表情の師長には気まずさを感じながら仕事を終えた。


明日の私の勤務は早番で、夜勤の師長とは顔を合わせる事はない。
だけど、きっと次に会った時には色々と言われるだろう。


ただ、矢田さんの場合、仕事がどうこう以前の問題に思えて、とてもじゃないけれど私の手に負えないと感じた。
注意やアドバイスを聞き入れようという努力も、ひたむきに頑張ろうという姿勢も見えない。


少なくとも、他の新人達からはそういったところが伝わって来るから、周囲としても出来るだけフォローを入れて助けてあげたいと思えるけれど……。矢田さんの場合はやる気は疎か、患者さんの前でもあまり笑顔を見せる事もない。


同期である新人達ともあまり話している様子もないし、先輩スタッフである私達とも極力関わらないようにしているみたいで、何を考えているのかわからないのだ。


今月いっぱいは酒井さんに任せるつもりだったけれど、師長の言う通り指導看護師を変えた方がいいのかもしれない。
通知のないスマホにため息をつき、矢田さんの事は近いうちに恭子に話を聞いて貰おうかと考えながら眠りに就いた――。

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