ラストバージン
* * *
「じゃあ、その新人の子は変わって来たんだ」
楓のカウンター席の一番左端に座っている私に、右隣りに腰掛けている榛名さんが微笑んだ。
「うん、おかげさまで。指導に当たっている後輩も驚いていたけど、最近は指導に熱が入ってる」
「それは良かった」
「ありがとう。榛名さんのアドバイスのおかげで、あの子の良さと言うか、伸びしろを見付けられた」
「僕は、ただ少しアドバイスしただけだよ。その子の伸びしろを見付けたのは、結木主任の力量だろ」
「私は全然ダメ……。ミスばかりに目がいって注意ばかりで、あんなに笑える子だって事すらわからなかったから。……それより、結木主任って呼ばないでってば」
「ごめん、ごめん。でもさ、一ヶ月でその子の良さに気付けたのなら上出来だと思うよ。教師は生徒の伸びしろを見付けてあげるのも仕事の一つだけど、それって意外と難しくて何ヶ月も掛かったりするし、残念ながら卒業間近まで見付けられないまま、なんて事もあるんだ。仕事はそれだけじゃないし、一人だけをずっと見ている訳じゃないし」
「そうだよね。教師なんて、きっともっと大変だよね」
ため息混じりに笑うと、榛名さんがフッと微苦笑を零した。