ラストバージン
「もうすぐ八月か。益々、部活がつらくなるな……」

「大変だね」


帰り道でも他愛のない話をしては笑みを零し合う私達は、すれ違う人達から見れば恋人同士だと思われているのかもしれない。
実際のところ、私にとって榛名さんはとても近しい存在になっているし、最近は付き合いの長い菜摘や恭子よりもずっと親密な関係なのだ。


好きか嫌いか、と問われれば、間違いなく前者。
ただ、それを恋愛の感覚だと思い込むにはまだもう一歩足りないような、だけどそれだって時間の問題でしかないような、とても曖昧な状態だった。


「そういえば、今度の休みはいつ? もうシフト出たんでしょ?」

「いつだったかな」


バッグから出した手帳を開き、土日祝日だけに目を通す。


榛名さんに休暇の事を訊かれる時はその三つを指されている事を、私はもうよくわかっている。
それくらい、彼とは親密になっているから。


「再来週の土曜日なら日勤の翌日だから、丸一日空いてるよ」

「じゃあ、そこ空けておいてよ。この間約束していた水族館に行こう」

「うん、わかった」


笑顔で頷いた私の胸の奥は子どものように弾み、その約束の日を励みに仕事を頑張ろうと密かに考えていた。

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