ラストバージン
「でも、それって主任の力ですよね」

「え?」

「矢田さん、少し前に言ってましたよ。『主任が相談に乗ってくれたんです』って。主任、いつの間にそんな事していたんですか?」


いつその事を聞いたのだろうと思いつつ、小さく笑って見せた。


「四月末くらいだったかな。でも、矢田さんが変わったのは、矢田さん自身の努力の成果だよ。私はほんの少しアドバイスをしただけだし」

「それがすごいんですよ。私なんて、矢田さんとちゃんと話そうともしなくて……。いっぱいいっぱいだったとは言え、自分の幼さが恥ずかしいです」


苦笑しながら肩を落とした酒井さんが、懐かしげに瞳を細めた。


「私が悩んでいた時も、主任がすぐに気付いて相談に乗ってくれましたよね。本当、つくづく主任って看護師の鏡だと思います」

「いくら何でも褒め過ぎだよ。そんなに褒めても何も出ないからね」

「あ、ばれちゃいましたか」


わざとらしくペロリと舌を出した酒井さんは、とても可愛らしい。


「でも私、結木主任と一緒に働けて嬉しいです」


そんな彼女の言葉は、例えお世辞だったとしても沈んでいた私の心を癒す程の力があって、今日初めて自然な笑みを引き出してくれた。

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