ラストバージン
視界の端に入って来たのは、天使のような寝顔。
その表情に自分の過去の罪が益々浮き彫りになるような気がして、相変わらず夢の中いる恭平君の無垢さが羨ましくなった。


「この間、葵から榛名さんの事を聞いた時、私ちょっとホッとしたんだ」

「え?」


不意な言葉に顔を上げると、恭子は何とも言えない笑みを浮かべていた。


そこには安堵や喜びはもちろん、心配や困惑といった感情が混じっているように見えて、私はただ黙ったままでいる事しか出来なかったけれど……。

「葵が本当に楽しそうだったし、榛名さんに対する気持ちに恋愛感情が混じっているように見えたし、やっと恋が出来るのかなって……。そんな風に考えて、何だかホッとしたんだ」

この数年間、恭子にはあまりにも心配を掛け過ぎてしまっていたから、彼女はきっと私の変化に気付いて喜んでくれたのだろう。


それが伝わって来て、申し訳なさや感謝の気持ちで心苦しくなった。


それでも、許されない過去を悔い、やっぱり恋愛なんて出来ないと思うのに……。

「葵がどうしても無理なら仕方ないかもしれないけど、もう一度よく考えた方がいいよ」

真っ直ぐな瞳で紡がれた恭子の言葉が、私の心の奥深くに突き刺さった――。

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