ラストバージン

* * *


「もう、いいと思うよ? あれから四年になるんだから……」

「良くないよ……。日高先生が既婚者だった事を知らなかったとは言え、奥さんを傷付けたのは事実だし、子どもだっていたんだから……」

「それは、その事を隠して葵と付き合った相手が責任を取る事で、事情を知らなかった葵が責任を感じる必要はないと思うけど……」


不満げに眉を寄せる恭子に、自嘲混じりの微苦笑を返す。


「最初はね、私もそう思った事があったよ」

「だったら……」

「でも、やっぱり奥さんを傷付けたのは日高先生だけじゃないし、何より不倫をしてしまったのは事実だから……」

「葵……」


恭子はため息混じりに眉を下げ、とても悲しそうな顔をした。


「葵がそう思うのはわからなくはないよ。私が葵と同じ立場だったら、きっと同じように考えていたと思うから……。でも……」


表情はそのままの彼女が、私の瞳を真っ直ぐ見つめた。


「ずっと、そんな風に生きていくの?」

「それは……」

「好きな人がいて、しかも両想いなのに、そうやって責任を感じて諦めるの?」


厳しさを孕んだ声音を浴びた私は、何も言えなくなって俯いてしまった。

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