ラストバージン
「今までありがとう」

「え?」


精一杯の笑みを浮かべて別れの意味を込めた言葉を紡ぐと、榛名さんの瞳がようやく私を捕らえた。


「水族館に行けなかったのは残念だけど……動物園も植物園も楽しかったし、それ以外の時間も本当に楽しかったよ」


表情を変えないように努める私を、彼が不満をあらわにして睨む。


「……僕はまだ何も言っていないんだけど」


榛名さんのこんな表情を見た事がなくて、グッと言葉に詰まってしまったけれど……。

「……でも、軽蔑したでしょう?」

再び自嘲を孕ませた笑みを零し、彼の瞳を真っ直ぐ見つめた。


「違う……。今は少し、混乱しているだけで……」

「頭の中が整理出来たら、きっと軽蔑するよ」

「……そんなの、わからないだろ」


必死に平然を装う私に、榛名さんは眉をグッと寄せた。


簡単に否定をする事も、決して浅はかな言葉を紡ぐ事もないところも、やっぱり彼らしいと苦笑が浮かぶ。


これ以上ここにいるといい加減に泣いてしまいそうでドアを開けようすると、それを制するように右手を掴まれてしまったけれど……。

「ごめんね……」

決して強い力ではないその手をそっと退け、小さく紡いだ謝罪を残して車から降りた。

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