ラストバージン
「ずっと葵から話してくれるのを待ってたんだけど、葵は前の病院での事は一切触れようとしないから……」

「別にそういう訳じゃないよ」

「ううん、葵は昔の事には触れないようにしてるよ。この際だからはっきり訊くけど、あの時何があったの?」


菜摘の顔は怒っているようにも見えて、はぐらかす事に限界を感じてしまう。


だけど……。

「私には言えない?」

不倫をしていた、なんて言える訳が無い。


「今だって本当は悩んでるんでしょ? その事も過去の事も、私には言えない?」


菜摘は基本的に自分の意見をはっきりと言うし、いつだってそれは変わらない。
ただ、友達に対してこんな物言いをする事はなくて、滅多にきつい言い方もしない。


そんな菜摘がここまで言うからには、きっとずっと不満だったのだろう。
それはもちろん私の事を心配してくれているからで、決して自分本位の気持ちから来ているものじゃない。


付き合いが長いからこそ理解しているつもりだけれど、それでも出来れば話したくないのも事実。


どう言えば、わかって貰えるのだろう。
眉を寄せながら言葉を探し、たぶん納得して貰えないだろうと気付いていながらも、ようやく重い口を開いた。

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