ラストバージン
「もし相手が既婚者だと知っていたり、それこそ相手の家庭を壊すようなつもりで付き合っていたりしたのなら、また感じ方は変わったと思う」


榛名さんは私を真っ直ぐ見つめたまま、真剣な雰囲気を纏った。


「でも、知らずにしてしまった事だったのなら、僕自身は責めたり軽蔑したりは出来ない」

「……あんな話、信じてくれるの? 九ヶ月間も付き合っていた相手が既婚者だって知らなかったなんて、本来なら言い訳にもならないじゃない……」

「信じるよ」


私なら信じられないかもしれないような話を、菜摘や恭子と同じように信じてくれると笑う。
そんな榛名さんの優しさに、自然と涙が溢れた。


「大体、隠し通せたかもしれないような事をわざわざ打ち明けるような人が、そんなところで嘘をついたりしないと思う。そこで嘘をつくくらいなら、最初から過去の不倫を話すなんてリスクをわざわざ負わないだろ」


呆れたように笑う彼が、再び優しげな瞳を向けて来た。


「それに、結木さんが後悔している事も、自分自身を責め続けている事も伝わって来たから、そんな君を軽蔑したりは出来ないよ」


そして、どこか悲しげな表情をした榛名さんは、呟くようにそんな事を口にした。

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