ラストバージン
「えっと、葵の彼氏……という事でいいのかしら?」


両親の前に私と榛名さんが座り、左右には姉夫婦と子ども達がそれぞれ腰を下ろして皆でテーブルを囲んだところで、母がまだ動揺を見せながらも私達を見た。


「はい、そうです」

「……その、いつから?」

「お付き合いは、三ヶ月程前からになります」

「榛名さんは、同じ職場の方なんですか?」

「いえ。僕は県立高校で教師をしています」

「そうですか。えっと、じゃあ……」

「母さん、先にお茶を」


榛名さんはまるで面接のような質問に笑顔で答えていたけれど、見兼ねた父が母を窘めた。


「あ、そうね。やだ、すみません……。葵から何も聞いていなかったものですから、何だか驚いてしまって」

「いえ、お気遣いなく。これ、よろしければ皆さんで召し上がって下さい」


慌てて立ち上がろうとした母に、彼が紙袋を差し出した。


道中で榛名さんが購入したのは、レトワール・ユニックの焼菓子。
私と彼が住んでいる地域にある洋菓子屋さんの物で、両親も姉一家もお気に入りなのだ。


「すみません、ありがとうございます」


榛名さんが恐縮している母に笑顔を向けると、母と姉はキッチンへと急いだ。

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