ラストバージン
五人になった部屋は、子ども達のおかげで緊張感が僅かに和らいだけれど……。母と姉が六人分の緑茶と二人分のリンゴジュースを持って来ると、再び緊迫した雰囲気に逆戻りしてしまった。


私から口火を切るべきなのだろう。
だけど、車の中で考えて来たセリフを思い出せない。


「あの……」


そんな私の隣で、榛名さんが背筋を伸ばして両親を真っ直ぐ見つめた。


「葵さんと僕はまだお付き合いを始めて三ヶ月程ですから、この先どうなるのかはわかりません」


真剣な声音に少しだけ悲しくなってしまったのは、やっぱり〝約束された未来〟なんてないのだと改めて思い知らされたから。


「でも……」


そんな気持ちを隠して榛名さんを見ると、彼が私を見つめてフワリと微笑み、再び両親の方に向き直った。


「僕は、結婚を前提としたお付き合いをさせて頂いているつもりです」


目の前にいる両親が驚きを見せたけれど、きっと二人よりも驚いたのは私だったと思う。


わざわざ両親に挨拶をしてくれるくらいだから、もちろんちゃんと考えてくれているのだろうとは思っていたけれど……。プロポーズもまだなのにこの場でこんな宣言をされるなんて、さすがに予想だにしていなかったから。

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