ラストバージン
姉夫婦はニコニコと微笑んで私達を見守っていて、この雰囲気に飽きたらしい桃子と孝太はポータブルゲームを始めていた。


「ですから、葵さんとのお付き合いを認めて頂けないでしょうか?」


今まで見て来た風景とよく似た状況の中、榛名さんは真剣な表情でゆっくりと言葉を紡ぎ、頭を深々と下げた。


言葉が出て来ない。
それは両親も同じみたいで、小さく見開いた目で榛名さんを見つめている。


嬉しさも、温もりも、幸せも。
一気に込み上げて来て、心の中がいっぱいになって。


あまりにも感動して、榛名さんを見つめる事しか出来ない。


「……榛名さん」

「はい」


程なくして口を開いたのは父で、榛名さんは真っ直ぐな瞳で父を見つめ返した。


「葵の事をよろしくお願いします」


そう言った父は、頭を下げてから優しく微笑んだ。


「はい! ありがとうございます!」


満面に笑みを浮かべた榛名さんが、再びテーブルに額を擦り付けるような勢いで頭を下げる。


「葵」


それまで傍観しているだけだった私は、姉の声でハッとして両親を真っ直ぐ見つめ、背筋を伸ばした。
途端、少しばかり年老いた両親がどこか小さく見え、鼻の奥がツンと痛んだ。

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