ラストバージン
「いつも〝拓海〟だって言ってるよね?」

「あっ……」

「実家にいる間もずっと〝榛名さん〟だったし、葵は一体いつになったら僕の事を名前で呼べるのかな?」


ハッとした私を見つめる榛名さんの瞳は全く笑っていなくて、それが不機嫌な時の彼の癖だと知っているからヒヤリとした。


「あ、えっと……両親達の前で拓海って呼ぶのはさすがに恥ずかしくて……。ほら、まだ付き合ったばかりだし!」

「じゃあ、それは大目に見るとしても、帰りの車の中でも今も〝榛名さん〟なのはどうして?」


ヒイッと叫びたくなるのは、この三ヶ月間で榛名さんの内面を色々と知ってしまったから。
いつだって優しい雰囲気を纏っている彼は、どうやらサディスティックなものを秘めているらしく、それ故に怒らせてしまうと厄介なのだ。


まだ喧嘩をした事はないけれど、私の言動に対して密かに不満を抱いていた榛名さんがこの後どんな行動に出るのか、さすがにもう予測が付く。


「しかも、僕がご両親の前で結婚の事に触れた時、実は一番驚いていたのは葵だったよね? ……もしかして、葵は僕と結婚する気がなかったの?」


更に追い詰めるように矢継ぎ早に訊かれて、私は彼の前で小さくなってしまった。

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