ラストバージン
不満を感じて不機嫌になっているのに笑顔のまま、というのが一番恐い。
もちろん手を上げられるような事はないとわかっているけれど、間違いなく自分の身に危険が迫っているのは事実。


「名前の事はごめんなさい……。一応、努力はしているんだけど、中々慣れなくて……」

「じゃあ、それはもう少しだけ待ってあげるよ」


しゅんとした私に、榛名さんは苦笑を零した。
一つの危険から身を守れた事にホッとしつつ、もう一方の主張を紡ぐ。


「でも、結婚の事は驚くに決まってるじゃない……。だって、まだ付き合って三ヶ月だし、そんな話をした事だってなかったし……」

「……僕、言ってなかった?」

「言ってないよ!」


目を細めた榛名さんに、弱みを見付けたと言わんばかりに強い口調で返したけれど……。

「……本当に言ってなかった?」

彼はそんな事は気にも留めないとでも言うように、再度ニッコリと笑った。


「え……?」


途端、脳裏に嫌な予感が過る。
私に心当たりはなくても、榛名さんがこんな顔をする時には何かあるはず。


慌てて思考を巡らせてみたけれど、やっぱり思い当たるような事はない。
戸惑う私に、彼が小さなため息を漏らした。

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