ラストバージン
「ねぇ、拓海」

「ん?」

「今度、拓海のご家族に会わせて貰えないかな?」

「え?」


きっと、私から言い出すなんて思ってもみなかったのだろう。
優しげな顔に驚きの色が浮かび、少ししてから笑顔に変わった。


「私も拓海のご家族にご挨拶したいし、拓海が育った環境を見てみたいの」

「うん、もちろん。きっと、両親も妹も喜ぶよ」

「でも、質問攻めは苦手だから、ちゃんと助けてね?」

「僕も頑張ったんだから、葵も自力で頑張ってよ」

「お願いします、榛名先生」

「結木主任の力量で乗り越えて下さい」


クスクスと笑った私達は、どちらからともなく額をくっ付ける。


「ところでさ……」

「うん?」

「実は、僕はまだ、君に〝好き〟以上の言葉を言った事がないんだ。どうしてだかわかる?」


そういえば、と思いながらも首を小さく横に振ると、榛名さんがフワリと笑った。


「僕達のペースで心の準備をして改めて君に結婚を申し込む時、〝好き〟以上の言葉を伝えたいと思っているからだよ。だから、それまでは葵も言わないで?」

「うん」


心がくすぐったくなるようなセリフを紡いだ彼に頷き、そっと触れるだけのキスを交わした。

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