ラストバージン
「私は別に……。誰とどんな会話をしたのかすら、ちゃんと覚えてないし……」

「ちょっと、誰か一人くらい印象に残ってないの?」


呆れたような表情の菜摘に、曖昧に笑って見せる。


「うん……。会話するだけで精一杯だったし……」


「職業とか年齢とか趣味とか何でもいいから、とにかく思い出しなさいよ」

「そんな無茶言わないでよ……」

「じゃあ、スタッフが合図したら、見た目がタイプの人に声掛けなさい」

「そんな……。外見だけで……」

「つべこべ言わない! 何も覚えてないんだったら、外見で選ぶしかないでしょ!」


眉をひそめた菜摘に、おもむろにため息を漏らす。


「……じゃあ、ドリンク取ったら考えるよ」

「そんなの後! ドリンクなんて取ってたら、他の女子に先越されちゃうわよ」

「軽い気持ちでいいって言ったのは、菜摘でしょ。これじゃ、全然軽くないんだけど」

「それはそれ。せっかく参加してるんだから、一人くらい連絡先を交換する相手を見付けなさい」


何とも身勝手な言い分に、再びため息を零す。
その直後、スタッフの合図でフリータイムが始まり、菜摘はすぐさま目当ての男性の元へと向かった。

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