ラストバージン
五分程歩いて着いたのは、料亭と呼べるような雰囲気を醸し出している上品な和食屋。
見るからに気を遣う店構えに益々憂鬱になって、女将さんに案内された座敷に腰掛ける。


奥には個室もあるようだけれど、私達が案内された座敷にはついたてがあるだけ。
それでも、座ってしまえば周囲の席の様子が見えなくなるくらいの高さがある衝立は、落ち着いた空間を作っている。


仕切られているにせよ、きっと個室だったら間が持たなかったに違いない。
隔離された空間に閉じ込められなかった事に安堵すると、高田さんが【お品書き】と書かれたメニューを開き、私の前に置いてくれた。


「苦手な物はありますか?」

「ほとんどありませんので、お勧めを教えて頂けると嬉しいです」

「僕のイチ押しは湯葉御膳です。同僚も皆、ここの湯葉御膳が好きなんですよ」

「だったら、ぜひ食べてみたいです」


笑顔で頷いた高田さんは、続けて「お酒は何が好きですか?」と訊いた。


「……あの、ビールでもいいですか?」

「もちろん」


こんなお店でビールを頼むのは気が引けたけれど、高田さんはニッコリと笑ってビールを二つ、そして彼のお勧めだという湯葉御膳を注文してくれた。

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