ラストバージン

* * *


「いらっしゃいませ」


レトロな雰囲気の中、優しい笑顔で出迎えてくれたマスター。
たったそれだけの事で心が癒され、ようやく今日初めて素直に笑う事が出来た。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」

「あけましておめでとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願い致します。さぁ、お好きなお席へどうぞ」


頷いて引いたのは、カウンターの左端の椅子。
先客がいない限り、私は大体ここに座るのだ。


「寒かったでしょう?」

「えぇ、今日は特に。いつものブレンドを下さい」

「かしこまりました」


一応メニューに軽く目を通したものの、やっぱりいつものようにブレンドコーヒーを選んだ。


店内は相変わらず満席には程遠いけれど、今年初めての開店だからなのかいつもよりは客足が多いようだ。
テーブル席は一つしか空いていないし、カウンターにも知人同士らしい初老の男性が二人で座っている。


「お待たせ致しました」

「いただきます」


そんな中でも落ち着いた雰囲気をそっと醸し出す店内は心地好くて、マスターが淹れてくれたブレンドはいつものようにとても美味しかった。

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