チャラ男とちょうちょ
知らなかった。
裕貴は、そんなふうに思ってたなんて。

「だけどさ、やっぱそれじゃオレが納得できねーんだよ。涙香は社長やってるって言うし、あいつに勝てるとこなんて一個もないけど、ちゃんと夜上がって仕事見つけて、そういうオレを真奈美に見てもらって。それでもあいつがいいって言うなら諦めるって決めたんだ」

裕貴はあたしの前に跪いた。

「真奈美。オレ、真奈美じゃなきゃダメだ。……結婚してください」

突然過ぎて、言葉が出ない。
しかも昼下がりの駅前。通り過ぎる人たちは物珍しそうにあたしたちを見ている。
それなのに、裕貴はずっと跪いたままだ。

「……なんで、あたしの気持ちわかるの?いつもそうだったよね」

あたしは差し出された裕貴の手に、自分の手をそっと重ねた。

「……何回も、真奈美の取り扱い説明書読んだから」

そう言って裕貴はあたしの手を握って立ち上がった。

「で、答えはOKってこと?」

「あたし、裕貴じゃなきゃだめみたい」

恥ずかしくて、相変わらず可愛くない返事をしてしまうあたし。

「よっしゃー‼︎」

裕貴は人目も気にせず叫んだ。
あたしたちを囲んでいた野次馬が、そんな裕貴に拍手を送る。

「ぎゅってして、いいよね?」

裕貴はあたしの瞳を覗き込んで言った。
だからあたしはこくんと頷いた。
裕貴はニコッと笑うと、あたしを包んだ。
…久しぶりの裕貴の匂い。
ただそれだけなのに、あたしの心臓はドキドキが止まらない。
こんな気持ちになるの、裕貴だけ。

「…絶対幸せにする」

あたしの頭の上で裕貴が呟いた。
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