黒愛−kuroai−
 


狭い店内を見ていると、釣り具屋の店主と客が、珍しげな視線を向けて来る。



店主のジジイが話し掛けて来た。



「へぇ、お嬢ちゃんが釣りやるのかい?」



それに答えたのは、私ではなく、客のオッサン。



「近頃、若い女の子の釣人が増えているそうだよ」




釣りをする気はないが、折角なので、商品を購入した。



ナニかに、使えそうな予感がしてネ……




シジイとオッサンに教えて貰い、必要な形に作り上げ、それをコートの左ポケットに忍ばせた。



結果として、釣り具屋に入って良かった。

そう思い、店を出た。





店先では柊也先輩が、缶珈琲片手に待っていた。



つまらない灰色雲を見つめ、錆び付いた自販機に背をもたれ、自然体を装おうと無理している。



店から出て来た私を見て、ニッコリ笑い、一見飲みかけ風の缶珈琲を差し出してきた。




「いらないです」



「そう言うなって。
一口飲めよ」



「喉渇いてない」



「この珈琲、今まで飲んだ中で1番旨かった。
飲まないと損だぞ?飲めって」




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