逢いたい~桜に還る想い~
★ ★
8月の終わり───あたしは家に帰ってきた。
本当は前期試験が終わるまで、という約束だったんだけど……
なんだかんだ理由をつけて先延ばしにしてたのは、
郁生くんの夏休みが終わり、高校が始まる頃にしたかったから。
………普通に振る舞わなきゃいけない。
そんな覚悟を心に誓いながら、久々に家の門をくぐる。
どんなことがあっても、周りに気づかれないようにしなくちゃ。
どんなに、辛くても。
どんなに、胸が痛くても……。
───郁生くんは、その日はバイトで、
「疲れた」と早々に部屋に引っ込んでいたあたしと、顔を合わせることはなかった。
でも、同じ屋根の下、あたしはどんな風に接すれば、前みたいに戻れるのだろう。
そんな不安に満ちたその夜、
あたしを嘲笑うように────ヒタヒタと、不気味な紅い幻が近づいてきていた……