みあげればソラ


「で、お前は正義感振りかざして、大好きなお姉さまを連れ戻しにきたってわけだ」

寝入りばなを起こされて、すこぶる機嫌の悪い弘幸は容赦なかった。

「そうだよっ、悪いかっ!」

それでも余程思い詰めてここへ来たのだろう、太一は一歩も引く様子はなかった。

「別にぃ〜、お前の勝手だろぉ〜

だけどな、お前の姉ちゃんは母親に追い出されたんだぞ。

俺ははっきりと聞いたぞ、『沙希がそうしたいなら家に帰る必要はない』ってな」

「それは……、それは姉ちゃんがこの家にいたいって言ったからだろ?!

きっとお前にそそのかされて、仕方なくそう言ったんだ」

わかってねぇなぁ、と弘幸は大きく溜息をついた。

「お前の母ちゃんは、後ろめたいのさ。

常に弟のお前を優先して娘を遠ざけてきたことがな。

世間の体裁を繕えないほど自分に後ろめたくて、自分の娘をまともに見ることさえできねぇんだ。

そんなとこで沙希が暮らしていけると思うか?

俺は思わえねぇ。

実際、沙希はそこから逃げ出してここに居るわけだからな。

俺があの時拾わなきゃ、沙希は凍えて死んでたか、はたまた悪い奴にさらわれて遠い外国にでも売り飛ばされて消えてたな。

お前に、そこまで追い詰められた姉ちゃんの気持ちがわかるのか?」

弘幸は目に涙滲ませた少年を、諭すように見下ろして言った。

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