みあげればソラ

美亜にとって、高等学校卒業程度認定試験を受けるとか、大学入学を目指すとか、そんなことはどうでも良かった。

美亜は、今、やっと訪れた平穏な生活に満足していたのだ。


常に母親の顔色を窺っていた昔の自分。

息を殺して羞恥に耐えていた過去の自分。


そこから開放された今、弘幸の為に食事を作り家事をして、自分の為に勉強をして。

声と外に出る自由は奪われたけれど、美亜の心は自由だった。

美しいものを愛で、楽しくて笑い、嫌なものは嫌と言える。

自分を救い出してくれた袴田家の人達に、これ以上何かを望むことは欲張りだということも十分承知していた。


(でも……、願うことくらいは許される筈……)

『わたしはここにいたいの……』

声にならない心の叫びが唇を震わせる。

『それだけで十分なの……』


涙を堪えて美亜は弘幸を睨みつけた。

感情を抑えて反抗心だけを見せた筈だったのに。

弘幸は容易にそんな美亜を見破ってしまう。

「馬鹿だなミアは」

そう言って、優しく抱きしめられてしまった。
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