この愛に抱かれて
直樹のその人柄は響子もよく分かっていた。


何度か話をしているうちに、彼の人間的な優しさと温かさを響子は感じ取っていたからだ。



それだけに響子は自分の中にあるジレンマに苦しんだ。



加藤直樹という人間そのものを赦してあげたいという気持ちと、両親を殺した憎い悪魔という架空の加藤直樹を赦せない気持ちが葛藤していたのだ。



その苦しみは徐々に響子自身を追い詰めていた。



「だけど・・・、私は・・・」

響子は手を握り締めた。
指が赤く充血していた。



「どうして彼の前に現れたの?」

聡子がポツリと言った。
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