この愛に抱かれて
「え?」


「彼、やっと立ち直りかけていたのよ。事故の辛さを乗り越えて、やっと人並みの生活を取り戻したところだったのよ。・・・これ以上、彼を苦しめるのはやめて!」

聡子は抑えていた苛立ちを堪えきれずにいた。


それは15年間我慢してきた彼女の苛立ちでもあった。


娯楽を避け続けた直樹にずっと付き添い、彼を支えてきた聡子。


好きな男に抱かれることも無く、女としての幸せを我慢し続けた聡子の心の叫びだった。



「私が、彼を苦しめる?」


響子は愕然とした。


自分が誰かを苦しめている。



そんな馬鹿な



被害者は自分だ
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