吐き出す愛
「別に、佳乃ちゃんが気にする必要なんてねえよ。確かにあのときはいきなり拒否られて嫌だったけど、俺もしつこく迫ってたのは悪かったと思ってるしさ。だから、ごめんな?」
今度は申し訳なさそうな顔をする有川くんに、何を言って良いのか分からなかった。
頷くという反応すら示せずに固まったままでいると、有川くんは言葉を付け加える。
「……つうか、マジでさ。あの頃のことなんて、俺はとっくに気にしてねーよ。現に俺ら今、こうやって会ってるんだしさ。関わらないとか、もうそんなの関係ねえじゃん?」
難しい顔をしたままの私に、優しく語りかけるような口調だった。
有川くんはもう、あの頃のことを気にしていない。
そう言ってくれているのに、いまいち心は晴れなかった。
……そっか。有川くんはもう、気にしていないんだ。
心の中でその事実を復唱すると、あの胸の隙間に寂しく冷たい風が流れ込んだような気がした。
変なの。
私の言葉で有川くんが今でも傷付いているわけではないのなら、本当なら喜ぶべきことのはずなのに。
あんまり、嬉しくないんだ。
「……そっか。それなら、良かった。わ、私もね、もうあの頃のことは気にしてないよ。こうやって会ってるんだから、あの頃のことなんて今更関係ないよね」
――嘘だ。
本当はずっと、あの頃のことばかり気にしていた。
その理由も分からないまま、15歳の有川くんの影ばかり探していた。
でも、そんなの全部。
勝手な私の、独りよがりだったんだ。
あの頃の記憶に捕らわれていたのは私だけで、有川くんはもう、とっくにあの頃のことを思い出に変えている。
私とは違って、過去の一部にしか思ってないんだ。
馬鹿だなあ……。
私、きっとどこかで期待していた。
有川くんも私と同じで、あの頃のことを特別な時間だと思ってるって。
そんな理由も保証も、どこにもなかったのに。