吐き出す愛
「……」
真っ直ぐ見つめてくる薄茶色の瞳に捕まると、すぐに言葉を返すことが出来なかった。
有川くんは私のことを変わってないって言ったけど……有川くんも、変わってないね。
いつだって強引に私を巻き込むところ。
そのくせこうやって、ときどき不安げに私の気持ちを確かめてくるところ。
優しさをくれる。……でも、その本心が何なのかは分からないところ。
有川くんなりに変わっていないところばかりが浮かんでくる。
私をデートに誘った理由も教えてくれたけど、それさえ何だか曖昧で。
有川くんはいつもどこで本心を見せてくれているのか分からない。
ずっと、謎ばかりだね。
「……うん、楽しかったよ。有川くんと1日過ごせて、本当に良かった」
……でも、何が彼の本心なのか分からなくても。
所詮私は、ただの遊び相手だと気付いていても。
どうしても、有川くんに引き付けられてしまうんだ。それはきっと、あの頃も同じだったね。
「そっか! そう思ってもらえたなら嬉しいよ」
私の唯一の本心に、有川くんは嬉しそうに笑った。
その笑顔にはきっと大した意味はない。そんな予感に、胸がきゅっと苦しそうな音を立てた。
感情が顔に出てしまいそうになって、慌てて顔を逸らす。
海の方に向くと、潮風で長い髪の毛が弄ばれた。
乱れた髪の毛を耳にかけてしまおうと手を伸ばす。
でも、風の中で泳ぐ黒髪に先に触れたのは……有川くんの手だった。
「相変わらず、さらさらしてて綺麗な髪の毛だな」
「……っ、」
突然触れられて固まる私をよそに、有川くんは好き勝手に髪の毛に触れてくる。
乱れた髪の毛をとくように指先で撫でて、それから私がしようと思っていたように耳にかけてきた。
その仕草をする有川くんとの距離がただ座っていたときよりも近くなって、息苦しさが襲いかかってくる。