吐き出す愛


 ねえ、有川くん。
 どうして、そんなことを聞くの……?

 有川くんにだけは一番知られちゃいけない答えを、求めたりなんかしないでよ。

 私には、答える権利なんてないでしょう?

 有川くんにとって私は、ただの遊び相手なのだから。……あの頃と、変わらずに。


「……好きなわけ、ないよ」


 (だんま)りを通していてもいつか本心を見抜かれてしまいそうで、震える唇で何とかその場を凌ぐ。

 咄嗟に飛び出したのは本心とは真逆のものだったけど、それで良かった。

 きっとこれが、この場で言う正しい答えだから。


 当たり前の答えでしょう、と訴えるように。
 目の前の有川くんを見つめる。

 本当は心が一杯一杯で、平然とした態度で有川くんと向き合っていられない。

 だけど目を逸らせば、心を見破られる。
 そんな予感がして、ぐっと堪えた。


「……そっか、そうだよな」


 有川くんの手が、私の髪や顔から離れていく。
 その動きはとてもゆっくりで、まるで名残惜しんでいるようだった。


「変なこと聞いてごめんな。今のは……忘れて」


 おまけに私の答えを聞いてから、有川くんは悲しそうに眉を下げていて。
 仕舞いには私から目を逸らすと、投げやりな声でそんなことを言う。

 だから、もともと分からない有川くんの本心が、余計に私には見えなくなった。

 有川くんは、どうしたかったのだろう。
 自分は教えてくれないことを私には求めて、何を見出だしたかったの?

 有川くんの考えていることが分からないよ……。


「帰りの電車混みそうだし、そろそろ行こう」


 不意に立ち上がった有川くんは、逸らしていた視線を再び私に向ける。
 その顔には、へらっとした笑みが貼り付いていた。

 日の光が弱まっていく空の下で見る有川くんは、不思議と儚くて。
 とても遠い存在に思えてならなかった。


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