吐き出す愛
……これでも、一応。
安心出来る狭い世界に閉じこもっている私への優子の気遣いは、ちゃんと受け止めているつもり。
でも、そう簡単には飛び出せない。
“私”という枠にはまりこんでしまっているのだから、いきなり変わろうとするのは無理なんだよ。
相当な度胸と勇気がないと……。
半ば憂鬱な状態で、委員会の集まりに向かう優子と教室で別れた。
それから重くなった足取りで昇降口に向かったわけだけど、下駄箱にもたれる大きな存在を目にして足がすぐさま止まってしまった。
ただでさえ誰かさんのせいで気分が沈んでいたというのに、今まさにその元凶が目の前に居る。
その人は固まった私に気付くと、下駄箱から身体を離してにっと口角を上げて笑った。
そして後退りして逃げようとする私を余所に、じりじりと距離を詰めてくる。
「佳乃ちゃん、遅かったじゃん。俺、待ってたんだぜ?」
出来れば私に声をかけないでとギリギリまで願っていたけど、呆気なく希望は砕かれた。
おまけに有川くんは相変わらず、馴れ馴れしく名前を呼んでくる。
しかも“待ってた”って何よ。
たまたまここに居たのとは違うわけ……?
「おいおい、無視すんなって」
こういうのは関わらずに無視するのが一番。
そう思って下駄箱からローファーを取り出すけど、有川くんは私の後を追いかけてくる。
これじゃあ、この前と変わらないじゃんか。
「なあ、佳乃ちゃん。一緒に帰ろうぜ」
「嫌です」
何ふざけたことを言っているんだろう。
きっぱりと断りの言葉を即答して有川くんの隣をすり抜ける。
でも昇降口を出たところで案の定追い付かれてしまい、再び足止めをくらってしまった。