吐き出す愛
「佳乃はさ、まだ智也のことは嫌いだと思ってる?」
黙りこんでしまった私に、優子は穏やかな声で尋ねてきた。その質問をゆっくりと理解したあと、首を横に振る。
「前よりは……嫌いだと思ってないよ」
自分でも驚くほど、有川くんへの嫌悪感は減ったと思う。
それはきっと、有川くんのイメージが私の中で少しずつ変わってきたから。
私と挨拶や言葉を交わすたびに、嬉しそうに笑う顔。
男の子慣れしていない私の反応をからかって、楽しそうに笑う顔。
意地悪で強引で、急に色っぽくなる顔。
真剣に物事を考える顔。
ときどき、儚げに何かを考える顔。
色々な一面を知って、私の中で有川くんの存在はだいぶ受け入れやすくなったような気がする。
ただ……。
「嫌いではなくなったけど、それだけって感じかな……」
「なるほどね。好きって気持ちが分からないからそれ止まりって感じなんだね。じゃあ聞くけど、智也と居て楽しかったりドキドキしたことはないの?」
優子は机に片手で頬杖をつく。
私は膝の上でもぞもぞと所在なさげに手を動かしながら考えた。
有川くんと居るのは……楽しい気がする。
あの日のデートの最後に有川くんにも同じ質問をされたけど、あのとき言った答えは今も変わらない。
学校で有川くんが話しかけてくるときも、いつも会話の内容が絶えなくて面白い。
内容はほとんどテレビのことや先生の愚痴なんだけど、有川くんの話し方が上手いせいかいつも聞いているのが楽しいって思えるんだ。
ドキドキしたことは……どうだろう。
有川くんはいつも接近して話してくるから、その近さにはどぎまぎしたことはある。
あと有川くんはやたらと“可愛い”とか女の子が喜びそうなこと言ってくるから、そういうときは緊張してしまうけど……。