「涙流れる時に」
PM8:00西新宿の路地裏のバー


「不倫って何なのよ・・・」やり場のない苛立ちと悲しさを背負って女はそこを訪れる。

そこは、そんな女達の毒を吐く場所。るみ子もそこでうっぷんを晴らしていた。

「いらっしゃい・・・」迎えてくれるのは、年老いた女ママ。

「どこにも行くとこないから・・・」

「そんなこと言わないでよ。また会えなかったのかい。寂しいんだろ・・・。」

ママはそういって、るみ子の好きなマティーニを注ぐ。

女の修羅場を全て見てきたかのようなその形相は貫録があるもので。

どんな話も聞いてくれて・・・でも無理に解決はしない。そこがなぜかクセになる、そんなママだった。

「ママ・・・既婚者の男なんてホント辛いよ。」るみ子はそう嘆く。

「だったら最初からそんな男やめなさいよ。」

ママはこの日も、説教臭い台詞をるみ子に浴びせた。

「でも、好きなの・・・」るみ子はそういっては、マティーニを豪快に飲みほした。

「馬鹿ね・・・」ママはそういって酔い冷ましに、熱いおしぼりを手渡すと・・・

「あーーん・・・熱いよ・・・ママ・・・」るみ子はそれを顔にあて、顔をさっぱりとさせたと思えば、次の酒をねだった。

るみ子は唯一ここでは大酒をくらう。浴びるように飲んでは墜ちていく・・・

自暴自棄になるのもある意味気持ちがラクになる。矛盾しているようで、でも、るみ子の中では成り立っていた。

カウンターの向こう側には一人の女。るみ子は偶然居合わせたその女と、つい目が合ってしまった。

女は、るみ子の話を聞いていたのか、「ご紹介していただける?あちらの子・・・」ママにそっと耳打ちした。

グズグズと涙を拭う、るみ子にそっと近づく・・・黒髪は、なびく・・・

るみ子はふと見上げると、そこには目を疑うほどの美女がいた。

「初めまして。」

るみ子はその女が眩しいくらいで、目を疑った。
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