さみしがりやのホットミルク
「………」

「中は誰もいませんよ。どうぞ」



部屋の前で立ち止まった俺を見て、伊月がそう促した。

すら、と障子を開けると、たしかに、部屋の中には誰の姿もなくて。文机や本棚が置いてあるだけの、俺の記憶にある、父さんの部屋そのままだった。



「ここで少し待っていてください。姐さんを呼んできますから」

「わかった」

「……逃げちゃダメですよ?」

「逃げねーよバカ」



軽口をたたいて伊月が部屋を出ていった後、はあっと、ため息を吐く。

……この家のどこかに、佳柄はいるのだろうか。それとも、どこか別のところに連れて行かれているのだろうか。

どちらにしろ、落ち着いてなんかいられない。早く顔を見ないと、安心できない。

──やるときはやる。この家はそういうところなのだと、わかっているから。


手持ち無沙汰で、とりあえずは、部屋の真ん中あたりにあった座布団に腰をおろした。

するとすぐに、廊下から複数の足音が聞こえてきて。俺は反射的に、からだをこわばらせる。
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