さみしがりやのホットミルク
……いつまでもここにいて、彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。

きっともう二度と、彼女と会うことはないのだろう。

そう思うと少しだけ、心の奥が痛んで。だけどそれには、気付かないフリをした。



「……今日は、助かった。ありがとう」

「オミくん、」

「オムライス、美味かったよ。ごはん食べて、久々に、そう感じた」



そう言って俺が小さく笑みを浮かべた瞬間、なぜか彼女の顔が、泣き出しそうにゆがんで。

だけどもそれは、気のせいだったのかと思うくらい。すぐに佳柄は、またあの、人好きのする顔で笑ってみせた。



「ううん。こっちこそ、ありがとう。……あたしの大学進学と同時に、お父さんの転勤が決まってね。こっから電車で2時間はかかる場所で、弟はそれに付いてったから……だからあたしも、お家で誰かとごはん食べるの久しぶりだったの」

「………」

「だからね、オミくんとごはん食べれて、うれしかったよ」



本当に、ありがとう。

言いながら、小さな手が、俺の頭を撫でた。

あたたかくやわらかな、彼女の手。 

どき、と、不意に心臓がはねて。



「……ッ、」



その瞬間こみ上げて来た、どうしようもなく胸を熱くさせる感情を、何て呼べばいいんだろう。


救われたのは、俺なのに。

うれしかったのは、俺なのに。

俺は、そんなふうに──やさしく触れてもらえるような、人間じゃないのに。
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