さみしがりやのホットミルク
俺のひたいにある絆創膏を指先で撫でながら、「でも、」と、彼女が困ったように苦笑した。



「こんな傷だらけのオミくん見たら、家族の人、心配しちゃうんじゃないかなあ」

「……家には、もう戻らないから」



言ってから、ハッとして、自分の口を片手でおさえた。

おそるおそる佳柄を見てみると、やはり彼女は、不審げに眉を寄せていて。



「……オミくん、お家に帰らないの?」

「………」

「じゃあ、どこに行くつもりなの……?」



誤魔化すことを許さないというように、彼女の手が、俺のワイシャツの胸元を緩く掴む。

それを見下ろしながら、ふっと、短く息をついて。

俺はしぶしぶ、重い口を開いた。



「まあ……簡単に言うと、俺今日、家出してきたんだ。ケンカふっかけられたのは、ただの偶然だけど」

「……どっか、行くあてあるの?」

「さぁな。とりあえず、こういう日のために今まで少しずつ自分の口座からおろしてた金、学校のロッカーに置いてたから……それでしばらくは、なんとかなるだろ」

「………」



黙りこくってうつむく佳柄のつむじを見ながら、俺はまた、息を吐く。

……まずった。こんなこと、話すつもりなんてなかったのに。

これ以上何か訊かれる前に早くこの場を去ろうと、自分のシャツを掴んだままの彼女の手に、そっと触れる。
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