さみしがりやのホットミルク
「なん、で……」

「え?」

「なんで、そんなこと、まで……俺みたいな奴のために、できるんだよ……っ」



佳柄が少しだけ驚いたように、俺のことを見上げている。

彼女がブレスレットをつけてくれた、右のこぶしを。ぎゅっと、握りしめた。



「普通、放っておくだろ。こんな、素性も知れない……殴られた痕があるような、人間なんて」

「オミくん……」

「……今、ここにいさせてもらっているだけで……俺にとっては、奇跡みたいなことで。なのに、こんな、ブレスレットとか……」



そこまで言ってから、自分を落ち着かせるように、ふっと息を吐く。

彼女の顔が見れなくて、視線を落としたまま、続けた。



「……俺、は……佳柄に、もらってばかりで。何も、返せていないのに」

「………」



うつむく俺に、ただじっと、彼女の視線が伝わる。

だけどそれは、数秒のことで。

不意にまた、きゅっと。小さな手が、俺の手を包んだ。



「……そんなこと、ないよ」



その声に反応して、ようやく彼女と目を合わせる。

まるで小さな子どもをあやすみたいなやさしい表情で、佳柄はただ俺のことを見上げていた。



「オミくんはあたしに、何も返せてないって言うけど……あたしはもう、オミくんに、たくさんのことをしてもらってる」

「え……」

「……あたしが作るごはんを、おいしいって言ってくれてありがとう。くだらないあたしの話でも、ちゃんと聞いてくれてありがとう。お母さんのことを、ほめてくれてありがとう」



俺の手を握るその手に、少しだけ、力がこもった。

ふわりと、彼女が微笑む。
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