さみしがりやのホットミルク
自分で考えたことのくせに、『彼氏』という単語に、ものすごく嫌な気持ちになってしまった。

思わず眉を寄せながら、しばらく彼女の寝顔を見下ろして。



「………」



そっと、音もなく、右手を伸ばす。

その手で俺は、彼女の鎖骨あたりにかかっている髪を、やさしく払ってやって。

カーテンの隙間から漏れる月明かりがぼんやりと照らす、薄暗闇の中。現れた白い首筋に、くちびるを寄せた。



「……んっ……」



小さく声をもらしながら、佳柄が身じろぎする、けど。目を覚ますことはなく、再び穏やかな寝息をたて始める。

ギリギリ髪の毛で隠れる位置……その首筋には、たった今俺がつけた、直径1センチほどのアト。



「……ざまあみろ」



不機嫌につぶやきながらそのやわらかい頬を人差し指でつつき、俺はふとんの中に戻った、けれども。

数秒後には度重なる自分の失態を猛然と後悔して、頭を抱えるハメになり。


──結局、俺がうとうと浅い眠りにつきだしたのは、もう空が白み始めた頃だった。
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