さみしがりやのホットミルク
#4.きみのために

「ありがとう、おにいちゃん」

あれは、ちょうど俺が、4歳のときの出来事だった。



「まったく……坊っちゃん。いい加減、機嫌直してください」



車の運転席でハンドルを握りながら、伊月が呆れたようにそう言う。

後部座席の俺は助手席側のはしっこに座り、窓の外を眺めながら小さく言葉を返した。



「べつに……おれ、きげん悪くないし」

「言葉と態度がまったく合っていませんよ、もう……久しぶりに、ご両親と一緒に外食なんですから。もう少し、うれしそうにしたらどうです」

「……家でゲームしてる方がよかった」

「こら、坊っちゃん」



たしなめるようにそう言って、伊月は軽くため息を吐く。

俺はますます眉を寄せて、ひたすら窓の外に流れる風景を眺め続けた。


……この、伊月という男は。俺が物心つく前から、世話係を両親から任されていて。

茶色いパーマがかった髪を後ろに流し、いつも、シワひとつないスーツとネクタイを隙なく着こなしている。

普段は物腰やわらかいけど、本気で怒ると、それはもうめちゃくちゃこわい人物。

そしてこの頃の俺は、いわゆる反抗期というやつで。

1番俺と過ごす時間の多い伊月は、何かと手を焼いていたのだ。
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