さみしがりやのホットミルク
「ああもう、こんな時間だ。坊っちゃんが、行きたくないってごねるからですよ。店の予約の時間もあるんですから」

「おれ、りょーてーのゴハンあんまり好きじゃない」

「もう……」



また伊月がため息をついたそのとき、俺は視線の先に、気になるものを見つけた。

それは、駅の中央改札口を出たところ。花壇の影に隠れるようにしゃがんでいる、ひとりの──。



「ッ伊月、車とめて!!」

「は? 坊っちゃん何を……」

「いーから!! とめて!!」



俺の勢いに押されたのか、「なんなんですかもう」、とつぶやきながら、伊月は黒のクラウンをわきに寄せて停車する。

後部座席から飛び出すように降りた俺は、走って、先ほど目に入った花壇の方へと向かった。



「あ、いた……!」



走りながら前方に目をこらすと、すぐにそれは見えてきた。

そしてそばまで来ると、足の速度を緩める。



「……ふえぇ~~ひっく、」



俺が車の中から見つけたのは、花壇の影にしゃがみこみながら泣く、ひとりの女の子だった。

その子は大きなうさぎのぬいぐるみを抱えて、くすんくすんと、肩を震わせている。

すっかり花壇の影になってしまっていて、しかも泣き声も小さいためか、まわりを通る人々は彼女の存在に気付いていないようだった。
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