ファインダーの向こう

Chapter2

 沙樹は自分の手の平に置かれた冷たく光る盗聴器を見下ろしながら困惑していた。


「神山をうまく誘導して、できるだけ里浦の情報を引き出して欲しい」


「え……?」


「お前にしかできないことだ。神山の取材だと思えばいい、取材はお前の得意分野だろ?」


 そう言いながら逢坂はそっと手馴れた仕草で煙草に火を点けた。口から細く緩く紫煙が吐き出されて、すっと闇に消えていく。沙樹はそんな様子をただぼんやり見つめていた。


「ルミに、逢坂さんのことを教えて欲しいって言われたんです。ルミは里浦の知り合いが逢坂さんのことを知りたがってるって言ってましたけど……」


「…………」


「その知り合いって一体―――」


「お前が今それを知る必要はない、下手に首突っ込むな」


 ぎろりと横目で睨まれて、沙樹は言葉を呑み込んだ。逢坂は沙樹と目を合わせようとしない、まるで余計な質問をされるのを避けているようだ。


「お前……怖いのか?」


 逢坂が口角を上げて笑うと、自分でも気づかない心の弱みを覗かれた気がして、沙樹は唇を噛んだ。


「……こわ、いです。R&Wでこれから何が起こるのかとか、私の探してる真実が、本当はとてつもなく恐ろしいもののように思えて―――っ!?」


 その時―――。


 不意に手首を掴まれて前のめりにバランスを崩すと、温かなものにふわりと包まれた。その温もりにデジャヴを感じて、沙樹は顔を上げる。


「逢坂さん……?」


 その小さな呼びかけに返事をすることもなく、逢坂は沙樹の頭を抱え込むようにして抱きすくめた。その心地よさに、沙樹は突っぱねることも忘れて甘んじる。


「逢坂さんって、本当は……一体、何なんですか?」


「……ただのカメラマンだ」


「私は……逢坂さんを信じていいんですよね?」


 沙樹はまるですがるように逢坂の服を握り締めて俯いた。


(こんなに近くで逢坂さんの熱を感じているのに……ものすごく遠い)


 顔を上げて目を合わせることができずにいるとその時―――。
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