ファインダーの向こう
 渡瀬は長い足を組み、煙草の煙を細く吐き出した。見れば見るほど高貴で上品な雰囲気が伝わってくる。渡瀬が身にまとっている空気に、今にも怖気づきそうになりながらも新垣は取材の要を話した。


「その、今回……取材を申し入れた内容ですけど、先日、芸能雑誌「peep」で噂になった里浦隆治と神山ルミに“渡瀬会”の影ああると―――」


「……それで?」


 渡瀬は顔色ひとつ変えずに煙草をふかしている。その様子に新垣は迫り来る焦燥感に息苦しさを感じ始めた。


「里浦隆治は本当に、“渡瀬会”とはなにも関わりがないのでしょうか?」


「うーん、君って結構率直直球な性格なんだね。里浦隆治とはもう手を切った……少しはしたたかにやってくれるのかと思ったけど、案外意志の弱い男だったんでね」


 渡瀬がドアの傍に立っていた数人の黒服の男に目で合図をする。一瞬でまるで刃物のような目つきに変わって、新垣はゾクリとした。


 すると―――。


「っ!? こ、れは……?」


 しばらくしてドアが開かれると、頬が痩けた男が両脇を抱えられながら部屋に入ってきた。


「里浦隆治君だ」


 それは自分の知っている俳優里浦隆治とは、似てもにつかない別人に思えた。しかし、よく見るとかつての里浦の面影が残っている。定まらない瞳孔に青白い顔色はまさに薬物中毒者の症状だった。


「せっかく来てくれたんだから、君に手土産をと思ってね。里浦は芸能界を今日引退した。まだ、世間的には知られていないから、この哀れな里浦の最後を写真に収めて君の収入に役立てるといいよ、後で路上に捨てに行くつもりだから」


 渡瀬はそう言いながらクツクツと含み笑いを浮かべている。


 危険だ―――。
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