ファインダーの向こう
 新垣の頭の中で警鐘がガンガンに鳴り響いた。けれど、時は既に遅かった―――。


「新垣君だっけ? うちの会社にどうしてすんなり通されたか……疑問に思わなかった? 私もね、知りもしないマスコミを自分の懐にすぐに入れるなんて、そんな愚か者じゃない……君は、私にとって使い道があるからだ」


「使い道……?」


「あの鼠のようにちょろちょろと私の周りをうろついてる逢坂透と、この私が腹違いの兄弟だっていうことも、あいつが“渡瀬会”を一網打尽にするためになったご立派な職業も、この私が引きずり下ろしてやったって……もう全部気がついていたんだろう?」


「っ!?」


 射るようなその視線に、新垣は微動だにすることができず、ただ膝の上で拳を握り締めていた。


「君をここまで通したのは……私と取引をしようと思ってね」


「取引……? 一体なんのこと―――」


「逢坂透を潰して、その手に倉野沙樹さんを抱きたいだろう?」


 怪しく誘惑するその視線が身体に絡み付いてくる。新垣は首を振って断ち切ろうとしたが瞼の裏に倉野沙樹の姿がちらついて離れなかった。


「いいじゃないか、逢坂透はねぇ……私たちにとっても、厄介な存在なんだよ。沙樹さんを透から守るために、私たちも協力を惜しまないよ」


「倉野さんを……守る……ため?」


 口の端を歪めながら、差し出す渡瀬の手を新垣は―――。


「……はい」


 まるで催眠術にかけられているかのように虚ろな目で、その誘惑の手をとった。
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