ファインダーの向こう
 寿出版「peep」編集部―――。


「倉野さん、遅くまでお疲れさまー。今日はもう先にあがりますね」


「あ、はい。お疲れさまです」


(もうこんな時間か……)


 時刻は夜の十時。


 沙樹は両腕を前に伸ばしてストレッチをすると、ほっとひと息ついた。気がつくと、編集部には沙樹を含めて二~三人しかいなくなっていた。


 ルミが逮捕され、続いて里浦が突然の芸能界引退に現行犯逮捕され、目まぐるしく変わっていく身の回りの現状に、沙樹は精神的に疲弊していた。


(あと少しだからやっちゃおう……)


 沙樹がパソコンに向かって依頼されていた記事を書いていると、にこにこしながら波多野が近づいてきた。


「沙樹ちゃん、お疲れさまー。まだ帰らないの?」


「あ、波多野さん……お疲れさまです。もう少ししたら帰ろうかと」


「うーん、なんか顔が暗いね、大丈夫? それにしても、突然の里浦の芸能界引退スクープ、まさか新垣が持ってくるなんてねぇ……先越されたのが悔しいとか?」


 先日、誰もが予期していなかった里浦の芸能界引退と逮捕のスクープを、新垣が波多野に特ダネとして寿出版に持ってきた。
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