ファインダーの向こう
第九章 嫉妬の愉悦

Chapter1

『―――それでは次のニュースです。昨日、俳優の里浦隆治容疑者が路上で職務質問の際、薬物を所持していたとして現行犯逮捕されました。里浦容疑者はすでに芸能界引退を発表しており―――』


 すでに日も沈み、間接照明がぼんやりと薄暗い部屋を僅かに照らしていた。


 昨日から異様に疼く右肩を、逢坂は忌々しそうに左手で鷲掴みすると、テレビを消して静寂に耳を傾けた。街の遠くからサイレンや車の走る音が聞こえる。


 里浦の芸能界引退や逮捕の裏に、倉野隆と同じ黒幕の存在を感じていた逢坂は、眉を顰めて小さく舌打ちをした。


「光輝……、いっ―――」


 その名前を無意識に口にした途端、右肩にジクジクとした痛みが走って、逢坂は顔を歪めた。


「くそ……」


 今朝、西新宿のいつもの廃屋ビルで朝日に向かって写真を撮ったが、結局全てデータを消去してしまった。昔はもっと納得のいくものが撮れていたはずだが、いつからこんなつまらない写真しか撮れなくなってしまったのかと逢坂は自身に失望した。


 私、逢坂さんの事が―――。


「っ!?」


 不意に沙樹の言葉が逢坂の脳裏を掠めた。


 あの時、反射的に沙樹を拒絶してしまった。守ってやりたいのにいつも指の間をすり抜けて突っ走ろうとする。そして、知らず知らずのうちに、沙樹の底知れない強さに興味を持ち、いつの間にか目が離せなくなっていた。

 こんなに心の奥まで入り込んできたのは沙樹が初めてだった。けれど、それと同時に沙樹の気持ちが恐怖でもあった。


「俺を恨め……その方がずっと楽だ」


 ボソリとひとりごちて、逢坂は服を脱ぎ捨てるとシャワールームへ向かった―――。
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