ファインダーの向こう
「倉野さん……オレ、どうかしてたんです……倉野さんを守りたいっていう思いが逆に倉野さんを苦しめた……だから、その……資料室でのこと、すみませんでした」


 一瞬、沙樹の脳裏に先日の資料室での新垣がフラッシュバックした。何かに取り憑かれたような目が、今は冷静さを取り戻している。


「罪滅ぼしじゃないですけど倉野さんのためなら、どんな協力だって惜しみませんよ」


 新垣はいつものようにいたずらめいてニッと笑うと、沙樹も思わず頬が緩んだ。


「まったく、君も懲りないね……これだから低俗な人間は―――」


 渡瀬は逢坂から身を離して、肩に降り積もった雪を払い落とすと、すっと目の前に立った人物に目を見開いた。


「もうやめなさい、光輝」


「っ!?」


 渡瀬はそこで初めて驚愕した表情で狼狽えた。


「と、父さん……」


 眉間に皺を寄せつつ呆れたようなやるせない表情を浮かべて、渡瀬の前に立っていたのは逢坂と渡瀬の実父でもあり、代議士の渡瀬龍馬だった。


「もういい大人だと思って任せっきりにしていた結果がこれとはな……政治活動が忙しかったとはいえ、お前があの会社で何をしていたかこちらのお嬢さんに全部聞いた」


「逢坂さん!」


 ゆっくりと上半身を起こす逢坂を、沙樹はしがみつくように抱きしめた。すっかり冷え切った身体に早く自分の体温を伝えたくて、沙樹はぴったりと身を寄せた。


「なんだよ……お前、温かいな」


「間に合ってよかった……」


 うっすらと笑う逢坂の表情を見た時、一気に瞼が熱くなって涙が溢れそうになるのをこらえた。


 その時―――。
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